1.説明の趣旨

実務を行っていないで、弁理士試験を目指そうとしている方(学生や他職種の方)の知恵袋の質問などをみていると、資格予備校の甘言に釣られている、又は、大学受験のノリで勉強頑張れば報われるはずと思いこんでいる(主に学生さん)方が見受けられます。その背景には資格予備校・資格雑誌が宣伝する弁理士の魅力みたいなものの影響を受けたものと推察します。資格予備校は、受験生の受講料で商売をしていますので、受験生を惹きつけようと頑張った宣伝をします。資格雑誌も資格予備校から宣伝広告費用をもらって出版していますから、資格予備校の影響を受けます。このため、実際実務をやっている身からすると、その宣伝内容には大きなギャップを感じます。
まず、弁理士試験に合格しても直ちに弁理士を名乗れません。有償の研修を受けて登録費用と、毎年の弁理士会費18万円を支払って初めて弁理士を名乗れます。しかし、大手企業ですらその会費は全員分払わず、合格者の半分しか登録していないというケースが見受けられます。そういった厳しい現実を踏まえて、何のために弁理士を目指すかを一度真剣に考えた方がいいという問題提起をしたく思います。そこで、資格予備校は教えない(=受講生が減るから)美味しくない弁理士資格事情弁理士・知財関係者の公的な発言をも根拠に語ろうと思います。なお、多くの弁理士がメインとして扱う特許実務を中心に語ります。

  2.弁理士って何ができるの?

弁理士とは代理業です。報酬を得て、特許庁に対する出願手続の代理ができます。この報酬の要件がポイントで、後述するように、企業内弁理士の存在意義に疑義を投げかけるのです。

  弁理士の主な業務である特許出願書類作成で求められる力は何か?

弁理士が最も多く扱う業務は、特許業務です。特許明細書を作成するのは、弁理士試験で問われる特許法の知識もそれなりには必要ですが、試験で問われる内容のごくごく一部です。一番求められる知識は、技術者が説明する最先端の技術を理解し、行間を埋め、書類を作成する力が求められます。また、技術者も忙しい合間に説明するので、その説明に間違いや矛盾が生じることもありますし、製品の公知部分は全部説明しません。そこを補う技術理解力が必要となります。最先端の技術を理解している人材はそうはいませんし、調べてもなかなか的確な情報というのは見つけられません。そのため、このような技術知識が豊富な特許の人材というのは、有資格者だろうが無資格者だろうが、重宝されます。なお、弁理士試験の選択科目で技術の科目も一部ありますが、この科目で特許明細書が書けるほど甘くはありません。試験で問われるのは、比較的教科書的な内容で古典的なものが多く、特許の仕事で使う技術知識は最先端の知識ですから。 一方、弁理士試験でメインで問われる法律知識はどうでしょうか?実務で使う法律知識の大半が調べれば、大体専門書に載ってます。もちろん、全くの素人ですと、まずいですが、ある程度の実務をやっていたら、法律知識の差で仕事の質に差が出る場面というのは余りありません。そして、実際の実務の場面では、技術を理解し、それを書面にすることに多くの時間を割きます。そのため、弁理士が行う特許実務において、最も必要なのは、法律知識ではなく、技術知識なのです。この弁理士試験と実務との乖離(試験で問われるのは法律知識だが、実際の実務で問われるのは、技術を活用した特許書類の作成能力)が、弁理士よりも評価される特許技術者(無資格者)を生み出している、逆に言えば、経済的に報われない合格者を生み出していると言ってもいいでしょう。なお、訴訟などの法律的な側面を扱う仕事ももちろんありますが、100件特許を出して1件訴訟になるかならないかというレベルの世界ですので、圧倒的に少なく、そのようなところを期待するのはやめましょう。そういうところを宣伝しているところがありますが・・・。年間千件にも及ばない知財関係の訴訟件数と1万人の弁理士数を比較すれば、そのパイの狭さは一目瞭然ですよね。

 3.弁理士以外だと、特許(又は知財)業務ができないの?

2の弁理士に求められる力と、ここを読み間違えていると、何年も勉強して合格した後々後悔することになりません。

 特許事務所の場合

特許庁に対する代理業務は弁理士や弁護士しかできません。しかしながら、弁理士の指揮監督の下、特許の書類作成を行うことは、無資格者でもできます。そして、弁理士業務の大半が書類の作成です。その作成が弁理士の指揮監督下という条件では、無資格者でもできてしまうのです。つまり、弁理士ができる業務の大半が制約があるとはいえ、無資格者でもできるんです。
では、弁理士資格が最も効果を発揮するのはどういう場面か?独立する場合です。しかし、合格者があふれた昨今、お客さんが来る保証もない独立をするのは、かなり勇気が要ります。

 企業の場合

企業の場合、更に無資格者との差別化が難しいです。実務では代理人が指定されない本人出願が一部行われています。弁理士資格は特許業務を代理するための資格です。報酬を得て特許出願の代理業務を行うのは弁理士や弁護士という有資格者ができることです。しかし、自分の発明を特許出願するために自分で特許手続をすることは弁理士でなくてもできます。そのため、企業の場合、弁理士の必要性を強調することは特許事務所より難しくなります。

 面接ガイドラインにみる弁理士の必要性

発明の詳細を口頭で説明したい場合などに、特許庁審査官との面接が行われます。この際にも、弁理士資格の有用性が特許事務所と企業では、分かれてきます。以下、特許庁のガイドラインの中身です。
https://www.jpo.go.jp/toiawase/faq/pdf/mensetu_guide_qa/tokkyo.pdf(1)代理人が代理している場合 当該代理人(ア.指定代理人、イ.出願人又は復代理人の選任権を有する代理人から、審査官との面接についての委任を受け、これを証する書面(委任状)を持参する弁理士を含む。)と面接を行いますが、その際、上記趣旨に照らし、できる限り代理人のうち当該案件を直接担当している担当弁理士と面接を行うようにします。 この際、弁理士事務所員については、面接の同席は許容しますが、審査官と直接的に意思疎通を図ることはできません
(2)代理人が代理していない場合 出願人本人、又は出願人本人以外の責任ある応対をなし得る知財部員等と面接を行います。 
また、(1)、(2)のいずれの場合も、これら出願人側の応対者において、発明者等が同席することを妨げるものではありません。 
ここからわかるように、企業が代理人を指定してない特許出願をした場合、知財部員との面接が許可されてます。ここからも、企業では、弁理士が必須ではないことがわかります。

 4.でも、合格したら手当などつくんじゃない?

合格率が3%を下回っていた昔は希少性があったので、手当がつく場合も多かったようですが、今では合格率も10%を超え、希少性はなくなり、そのようなケースは余り聞かなくなりました。その上、合格者が増えすぎた結果、組織としても、予算を確保できなくなったのです。昔の5倍以上の合格者が出たので、当然ですよね。更に、仕事は成果を出して何ぼなんですが、法律より技術知識が求められる傾向が強いので、技術に精通した無資格者が技術に疎い有資格者よりいい仕事をすることも珍しくありません。そんな状況で、あなたが経営者だったら、あえて多額の手当を払いたいと思いますか?むしろ、公平に成果を出す人を評価して、成果を出す人のモチベーションを挙げるために予算を使ったほうがいいのではないでしょうか?ということで、今では、手当がでないところも珍しくありません。なお、資格手当が出るケースの多くは、本来の給料が低いケースが多い印象を持ってます。企業だと資格手当どころか、下に述べる登録費用すら出ない場合が多いです。

 5.それどころか、弁理士になった結果、所得が減ることも。

資格手当がないなら、まだいい方です。弁理士はその資格を維持するために、毎月弁理士会に弁理士会費1万5千円を支払う必要があります。今では合格者が増えすぎて、この会費を払ってくれない職場も珍しくないのです。これは、特に企業勤めが顕著です。そのため、弁理士になるために年間18万の費用を支払わなければならなくなります。弁理士だからと言って、高い報酬がもらえるわけでもなく、若い人にとっては大変大きな出費です。それでも、合格者が少なかった時代には余りいなかった企業内弁理士が今では毎年増え、全体の2割を超える程になってるのです。企業ですと、上で述べた通り、弁理士資格を有する必要性が少なく、更に、手当はおろか登録費用も払ってもらえないケースも多い、つまり、資格があろうがなかろうが変わらないのに、このように企業に留まる人が増えているということは、昨今の弁理士事情の厳しさを示しているといっていいでしょう。

 6.【決定的な証拠】大手企業ですら、弁理士試験合格者の半数程度が弁理士登録をしていない現実


さて、今まで話してきたことは何も引用がないので、どこまで本当かな?と思う方もいると思います。その説明を補強する衝撃的な証拠を出したいと思います。特許庁が公開している弁理士制度小委員会の資料です。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/newberisi/06_gijiroku.pdf○長澤委員代理(中澤様) 長澤の代理で来ています中澤です。  キヤノンでは 35、36 人ほどの有資格者がおります。ただ、この中で実際に弁理士登録をしているのはそのうちの約半分ぐらいです。それはうちの会社が費用を負担するとなると、弁理士としての業務をやっていただくということになります。それこそ面接審査に参加するだとか、そういうことがしっかりできる人たちをそういう業務に当てていくということでございまして、全員分を負担するのは、登録料が高いこともありましてなかなかできないという現状もありますということを御理解いただければと思います。 
キヤノンさんといえば、日本を代表する企業で、キヤノン特許部隊という呼び名もあるぐらいに知的財産が強いことで定評がある企業です。そのような知財に力を入れている企業ですら、半数しか弁理士登録をしていないのです。知恵袋で見ていると、弁理士試験に合格したからいいことある、難しい試験だから合格したら高い報酬がもらえる、など資格に対して一定の幻想を抱いている方が見受けられます。しかしながら、大手企業の社員の半分が登録を渋る現実を見れば、そんな甘いものではないということが見て取れます。ちなみに、キヤノンさんは面接審査のために弁理士を有しているとしてますが、実際は、代理人を指定せずに特許出願した場合は、代理人は必ずしも必須ではありません。知財部員も同席できます。
また、日本弁理士政治連盟も昨今の弁理士業界の厳しさを以下のように指摘してます。
4.飽和状態の弁理士試験合格者の減員を

(1)2001年の特許出願43万9千件をピークに、我が国の特許出願は減少を続け、12年後の2013年には33万件と、10万件以上減少しました。一方で弁理士数はその間に2倍以上に増加し、残念ながら同業者間で過当競争が起こっています。これは弁理士業界の問題であるばかりでなく、出願する側、延いては国家国民にとっても不幸なことです。

(2)30年前は合格者が90名程度であったものが、受験者数が2倍以上になったとしても、年間の合格者600人超は如何にも多過ぎるのであって、物事には適正ということがあります。2014年度の合格者は385名と近年に比べると減少したものの、2013年度の特許出願件数から割り出し、弁理士総数1万人をキープする考え方からすると、せいぜい年間合格者200人程度が限度であると思われます。
今日、弁理士は職業として成り立たなくなりつつあり、その証拠に、20年前までは多くの審査官が特例試験で弁理士になっていたにもかかわらず、現在は弁理士になる審査官が殆どいない状況です。

  7.10年もせずに弁理士をやめる人たち

弁理士会では弁理士番号つきで抹消登録をしている人も開示しています。例えば、2005年の弁理士登録で13000番台ぐらいです。http://www.jpaa.or.jp/?cat=1131上の弁理士登録公告にある日付のリンクを幾つかクリックしてみましょう。登録した新しい弁理士が書かれていると思いますが、下に登録を抹消した弁理士もいます。抹消登録の番号を見てましょう。リタイアの年齢だろうなという古い番号の人よりも、13000番台以降の若い番号の人の抹消登録も目立ちます。申請抹消というのは死亡は含まれず、自らの意思で抹消登録していることを示します。中には数年で辞めている人もいます。2010年登録が大体16000-17000番台です。ほとんど最近登録したばっかりではないかという人も散見されます。資格予備校は弁理士のばら色の未来を語りますが、こういう現実は語りません。抹消の事情は色々あるでしょう。登録費用が高い、職種が変わった、勤務先が支払わなくなった、弁理士に興味が持てなくなったなどなど・・・。また、知的財産の実務をしているのに、登録しない合格者も少なくないのです。企業勤務ですと、最近はこのようなケースがよく見受けられます。複数人の弁理士から「あの人は凄い」と絶賛される企業の実務経験者(ただし、弁理士試験はかなり前に合格済)が未登録という事例も知っています。そこまでの実績があると、弁理士資格は能力の証明すらならず、会費を払う価値すらないのかもしれません。大変悲しい現実です。このような現実を踏まえると、弁理士試験は一定の知識を得るのには有用ですが、それ以上に実務能力が必要ということが良くわかると思います。

 8.知財関係者は、大手企業・警察官よりも低い年収と指摘

このような現実を踏まえると、弁理士試験は一定の知識を得るのには有用ですが、それ以上に実務能力が必要ということが良くわかると思います。日本弁理士政治連盟という弁理士の政治団体があります。ここの副会長も、以下に引用するように、かなり衝撃的な発言をしています。
1.はじめに アメリカには100万人もの弁護士がいて、皿洗いをしている弁護士とか、救急車の後を追いかけている弁護士がいるとか、着手金ゼロで成功報酬のみで請け負う弁護士が多いとか、いろんな逸話が聞こえて来ます。さすがにアメリカで、義理人情国家でない法治国家で訴訟大国は違うわい、と思っていたら、日本もそのようになりつつあり自覚するのが遅かった、と言う感があります。 ところでアメリカの弁護士は、CPA(公認会計士)を除いて日本のあらゆる国家資格業を含んだ業務を行っています。 日本は弁護士登録数こそ26000人程度ですが、弁理士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、不動産鑑定士、社会保険労務士、土地家屋調査士等の資格者を合計すると30万人位になります。日本の人口は1億2000万人、アメリカの人口は3億1000万人、この人口比からすると日本の合計資格者が80万人弱ということになり、訴訟社会のアメリカに近付きつつあります。この結果、殆どの資格業の平均所得が徐々に大企業のサラリーマン以下になりつつあることも当然と思われます。すでに警察官の平均所得より弁理士の平均所得の方が低いとも言われています。
2.弁理士大増員時代の対応 私が弁理士資格を得た昭和47年は、弁理士1800人程度で、毎年80人程度が試験に合格し、ヤメ審査官をプラスしても年に100人も増えない時代でした。そして出願件数は特実意商の合計で80万件以上あり、弁理士一人の出願件数は450件の時代です。その結果弁理士だけでは処理しきれずに、大量の非資格者職員を抱え、酷い特許事務所は職員200人に弁理士10人という信じられない業態のところもあるということです。 そのために一部弁理士の収入が桁外れに高額となり、しかも業務は圧倒的多数の無資格者任せという有り様です。このような事態を放置し何の対応も出来なかった弁理士会に責任の一端がありますが、それが今日の大増員時代を招き、警察官の平均所得より低い資格業になったと言っても過言ではありません。
また、特許庁で開催される「産業構造審議会知的財産分科会 第9回弁理士制度小委員会」では、以下の発言がありました。発言者は、前日本知的財産協会常務理事であり、大手企業の知財センター長で業界にも詳しい人の発言となります。
若い人たちの受験者数が減っているという話がありました。若い方、特に理工系の優秀な学生が弁理士を目指したくなるような環境になってくることは非常に望ましいことだと思っております。重要なのは、今までも議論されてきたことですが、弁理士が専権業務以外の仕事でいかに収入が得られるかということです。これが非常に大きな問題の一つだと思っております。この資料2にもありますように、企業内弁理士が全弁理士の 20%超ということは、80%はほとんど特許事務所でお仕事されている弁理士だと思います。その事務所勤務弁理士の収入は、ほとんどが専権業務である日本の特許出願の明細書作成あるいは権利化業務ということで、例えば係争事件の数の少なさ等を見ても分かりますが、それ以外の専権業務や非専権業務で収入を得ることが難しいというのが現状だろうと思っております。かつて 40 万件を超えていた日本特許出願件数が近年では 30 万件ちょっとということで、少なくなっており、特許事務所勤務の弁理士の仕事が減少しています。理工系の人が弁理士になることが多いと思うのですが、例えば理工系で優秀な人が企業に就職して働く場合とか、あるいは特許庁に入庁して審査官として仕事をする場合と比べて、特許事務所で働く一般的な 30 代、40 代の弁理士の収入は、私の認識では、平均的に少ないと思います。そのあたりが受験者数が伸びない、むしろ減少している大きな要因の一つだろうと考えます。
この通り、業界関係者では、弁理士試験合格者増・特許出願の減少により、年収が激減していることが指摘されています。弁理士試験合格者の学歴では、大手企業に就職できるレベルと言えますが、その弁理士の年収はもはや大手企業より少ないと言われているのです。

 9.では、どういう人が目指すべきか?

否定的な意見を書きましたが、これは資格を取れば安泰、年収が保障される、という仕事内容に大して興味もなく、目指す人や、実務をせず資格を過信する人に対する忠告で書きました。本当にこの仕事に興味がある人・実際に実務をやっている人にとっては、目指す価値はあると思います。弁理士試験の知識は実務で使う場面はもちろんあります。たとえ、弁理士登録会費が自腹になって、年間18万自腹になったとしても、試験勉強で学んだこと自体は実務でも役立つ場面も多いです(ただ、試験勉強の大変さの割りに、実務で使う知識が少ないのは否めません)。弁理士会は研修も多々用意していますし、他の弁理士と意見交換して実務のスキルアップを図る機会も図れるでしょう。また、弁理士登録をしなくても、実務で使う場面はあります。そういう人にとっては実りがあるものだと思います。また、弁理士登録をしなくても、知識は実務で活用できます。しかし、資格予備校の甘言を鵜呑みにして、合格後の経済的なところに期待して目指す場合、後悔しか残らない結果になりかねませんなにせ、合格者の平均受験回数4回とか5回とかいう世界です。合格するのに、多大な予備校費用もかかり、更に、合格後は毎年18万円の会費もかかるという世界です。更に、実力主義の世界ですので、試験に合格した人が合格してない人より高い報酬が得られるかというと、そうでもありません。ましてや、別の職種で経験を積んだ方が新しく特許実務をする場合、前職の給料が維持できる保障もありません。そして、上述したとおり、実務で使うのは、試験の知識よりも試験外の知識が多いのです。資格の魅力みたいな幻想に捉われることなく、仕事の中身そのものを捉えて、目指してほしいものです。イメージとしては、年間18万円費用がかかる知財の知識があると証明できる資格みたいなものだと考えておけばいいかと思います。TOEIC高得点とか英検1級のような評価はあると思います。でも、資格あれば仕事が出来るわけじゃありませんので、その評価は限定的です。

  10.そもそも、資格がなくても多くの特許実務はできる

既に述べた通り、資格がなくても弁理士実務でやる多くのことは、無資格者であっても、弁理士の指揮監督下、実務をやることができます。企業での知財実務でしたら、弁理士なんて全く要りません。実務経験がなくて、就職活動で苦労する話も聞きますし、特許出願書類は他人の考えた発明を理解して書面に起こす仕事なので、向き不向きがあるとよく言われます。そのため、先に実務の世界に入って、やっていけそうかなと感じてから、試験勉強をするのが一番いいと私は思います。実務をせずに、何年も試験勉強をするのは大変リスクがある行為ではないかと感じます。

 11.仕事は国内案件より海外案件が増えている。でも、弁理士は日本の資格。

日本の特許出願件数は、年々減少傾向にあります。更に、民主党政権時代の異常なまでの円高により、日本の製造業の多くが海外拠点にシフトしていき、海外の重要性が高まっています。当然、特許の業務もこの影響を受けており、今では海外案件の方が多くなっています。しかし、弁理士はあくまで日本での代理資格ですから、海外で権利を取るための案件では、弁理士資格の有無によって仕事が出来るか否かは関係ありません。ますます資格が不要な方向に業界の動きが向かっているのです。

 12.資格というフィルターを外して、仕事を選ぶべきです

もちろん、稼いでいる人もいます。技術者からあの人にかいて欲しいと強く熱望される、凄腕の弁理士は引く手数多です。一方で、年収300万だったり、上で記したように弁理士登録を抹消してしまう人もいるのです。つまりは、他の業界と変わらず、稼げる人は稼げるし、稼げない人は稼げないという世界なのです。それだけならまだいいですが、他の職業より稼げる保障がないのに、弁理士資格を維持するには弁理士会費を毎年18万円支払う必要がある職業です。そして、その支出に見合った対価が得られるかというと、大手企業ですら、半数の合格者が弁理士登録をしていない現実からそうではないのは明らかです。ちなみに、複雑な技術を理解し、発明者が説明していない技術的事項まで膨らますことができる人は、弁理士ではないいわゆる特許技術者も引く手数多です。要するにお客さんは仕事の質を見ているのです。幾ら経歴や肩書きがよくても、まずい料理より、無名でもおいしい料理を食べたいですよね?。そういう現実を踏まえて、資格を取れば安泰だ・経済的にも恵まれているなんて動機でこの資格を目指すことは思いとどまって、この資格の仕事の内容そのものをみて、本当に自分にとって魅力的に思えるのかどうかを真剣に考えて欲しいなと思います。実務をせずに、この資格を目指している人は仕事内容より資格に幻想を抱いているケースが大変多いと感じています。資格がなくても多くの弁理士がやっている業務はできるんですから、仕事に魅力を感じているなら、実務の世界に飛び込めるのです。そして、お客さんは資格というお飾りなものより仕事の品質を見ます。
そういった現実を踏まえ、知財業務をやっていない方が目指す場合、何のために弁理士試験を目指すのか?というところを一度問題提起した方がよいと思います。知財業務がやりたいなら、すぐ転職するべきなのです。それなのに、転職せずに弁理士試験を目指している場合、試験に合格すれば直ちに努力に見合ったリターンがあるという期待があるのではないでしょうか?現実は必ずしもそうではありませんので、しっかりと状況分析をされることをお勧めしたいと思います。