ピル

2017/12/21

倫くんが、背中に口づけながら「りかさん俺に中出しされるためにピル飲んでよ」と言ったから、わたしは翌々週には婦人科に、ピルを処方してもらいに行った。

 

倫くんが誰とやっているかわからないし、基本的に避妊具をつけずにしているから、洗いざらい検査もしてもらった。検査前に「何か心配なことがありますか?」とベテラン女医に聞かれて「いや、わたしの相手が幅広い相手とセックスしておりまして」と真顔で答える自分に、答えてから慌てた。たぶんそういうことを聞かれていたんじゃない。女医は変な顔をして、「ああそうですか」と言った。こういうとき、なんで倫くんみたいな男と生でやってるんだろう、と我に返ったりする。

 

倫くんとはここのところ四六時中一緒だ。朝7時に出社するわたし、8時前にはわたしのそばに座る倫くん。打ち合わせも2,3本はかぶる。デスクで作業している間も、5分に1回は「りかさーん」って話しかけてくる。もちろん主に仕事の話だが、どうでもいいようなことがほとんど。アシスタントさんからマネージャーから、「いちゃいちゃすんなよ」「仲良いですね」と1日1回は声をかけられる。まもなく、若い契約さんからは「倫太郎くんとりかさんが付き合ってるってほんとですか」と聞かれた。

 

この間なんか。彼が終日研修でオフィスを不在にしていた日の夜、帰ってきた彼は真っ先に「りかさーん」ってわたしのデスクにやってきた。「ああおかえり、わたしも倫くんに話あるんだよ」って顔をあげてほほ笑むと、何に照れたのか彼は言葉に詰まって慌てていた。「あれ、俺の用事なんだったっけ」

 

倫くん、落ち着きなさい。わたしたち、ただセックスしてるだけだよ。

 

でも、関係が始まってから2か月、ここまで毎日甘えられると、「あの子、ちょっと本気なのかな」と自尊心がくすぐられる。遊び人を公言している彼も、毎日朝から晩まで会社にいて、その間じゅうわたしといて、週に1回はわたしとセックスしていたら、ほかの女とやる暇もないし意義も薄い。実は、いま、もうわたし一人に絞ってるんじゃないか。そして、そのほうがいいなって思い始めてやしないか。

 

付き合ってもいいかもなあ。淳也とはもう終わらせて。

 

帰り道、未明の首都高を滑るタクシーのなかで、ぼーっとそんなことを考えて、うすら寒くなることもたびたびあった。今までの男、全員に「彼となら」って思ってきて、ほぼ全員とくそみたいな終わり方をしてきたから、もうわたしは「彼となら」を全面禁止したい心境だった。自分の恋なんてもう疾うに信じていなかった。

 

いかんいかん。相手は腐れ外道の冷血漢の色狂いだ。目を覚ませ。

 

そんなある夜、後ろから腰を抱えたまま「中に欲しいの?」って言うから、わたしは自分でもびっくりするくらい低い声を出して「いやいや」と答えた。こんな腐れ外道のために身体を壊す気はない。「えー」と甘えた彼はこともなげに言う。「りかさん俺に中出しされるためにピル飲んでよ」

 

こいつほんとに外道だなー。

 

彼から顔が見えないのをいいことに、わたしは枕に顔を押し付けて冷笑した。ウケる。女の身体をなんだと思っているんだろう。

 

でも。可愛い、と思った。彼のその支配欲に熱くなった。

 

いいよもう。わたしをとことん支配して、奪っていけばいい。

 

それがわたしとあなたのトンマナだ。ドライでアナーキーな関係。支配欲の強い男と被支配欲の強い女。それはそれで物語としてありじゃないか。面白い。当然、誰一人として友達には話せない。まあそれも一興。

 

なんて、婦人科で処方を待つ間、ピルをもらいにきてしまった自分に説明をつけるために、クールに解説している。が、その実、組み伏せられ、支配されることへの欲求に勝てないだけだった。彼のものでありたい。彼の手中にありたい。そんな危うい陶酔が身体の芯から立ち昇ってきて、わたしは慌てて一人、咳ばらいをするのだった。

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